改竄。もしくは上書き。

ベッドサイドに備えつけられたソファーに身を沈め、ダウンライトの灯りに浮かぶユウコの白い裸身を眺めながら俺は煙草に火を点けた。汗と唾液、それにスペルマでまみれた肌は艶やかに光っているように見えた。
「いっぱい、ついてるでしょ?」とユウコは俺の視線を遮るように白いシーツを胸元まで、たくしあげた。「気にならない?」ユウコが顔色を窺うように首を傾げる。そこには居ない存在を周囲に主張するキスマーク。首と両胸、今は見えていないが股の付け根にまで、つけて日が浅いのか鮮やかに残っていた。
「まあ、気にならないとは言えないかもな」と俺は言った。続けていろんな意味でな、と付け加えた。ユウコが何か言いかけたのを遮るように俺は更に言葉を続ける。「むしろ、彼氏に疑われてるんじゃないかと心配した方がいいんじゃないか」そう言うとユウコは笑い、有り得ないね、と言った。世界の理に絶対という事はない。人間を囚わる常識ですら、たった一夜にしてひっくり返り続けてきた時代のように確かなものじゃないのだ。
「いま、何時? 」とユウコが聞く。壁に下がった時計は日付が変わって間もない時刻を示していた。それを言うとユウコは大きく欠伸をして 「寝ていい? ここんとこ寝不足なんだ」そう言うユウコの目はすでにトロンとしていた。


プシュ。と、思いの他にビールの缶が大きな音をたてた。
横目でユウコの方を見やるが、起きる気配は一向になかった。どうせ夜遊びが過ぎるんだろう。そう思ったが、そう言い切れる程、俺はユウコの事をほとんど知らない。出会って半年という時間の割りには知らなさ過ぎるとも言える。需要と供給の関係は対価が変っただけで、何も変わっていない。
俺はビールを飲み干すと缶を握り潰し、ベッドにあがった。それから、寝ているユウコの膝を立て俺はのしかかった。ユウコが目をあけ「眠いんだけど」と言う。「寝てていいよ。おやすみ」と俺は微笑する。ユウコは諦めたかのように俺の首に手を回し、抱き寄せ「寝れるわけねーだろ」と耳元で笑う。俺はユウコの首筋にあるキスマークに思いっきり吸い付く。ユウコが短く息を漏らした。

今日の雨はいい雨だ

どこへも出掛けたくないぜ。楽しもうぜ 楽しもうぜ。俺の顔は埃で真っ黒。
今日脳内で延々リピート。 

http://www.youtube.com/watch?v=sIV1YAIleRk


しかし、民主党はタレントやアスリートを揃えれば選挙はどうにかなると今も本気で思ってるんだなぁ。
それとオザワンに持ち上げられ、安定収入に目が眩んだ輩共は「俺はサッカー選手だから政治は知らない」と断下したカズをちっとは見習うといいよ。

黄昏ゆく街

「偶然なんだ」
俺はやや動揺していた。一年も前に足しげく通ったアパートの前で、訝しげな表情を浮かべるでもなく、心底興味無さそうな感じで、彼女は次の俺の言葉を待っていた。「彼氏?」
「ではない。でも優しくしてくれる」
「そう」
「うん。今日は部屋で鍋をするつもりなんだ。多分、その後セックスする」
「そうか」
「うん」
俺は煙草をブーツで揉み消し、視線をアパートの入り口に移した。俺は先ほど、彼女と連れ立って歩いていた男を思い出す。薄暗い照明がついた階段を登り、狭い廊下に置かれたゴミバケツを避け、端から数えて二つ目の部屋が彼女の部屋。
「なあ、お節介かなとは思うんだけど」
「ホントにお節介よ」
「未だ何も言ってないだろ」と、俺は苦笑した。彼女はニコリともせず、言った。
「もう帰ったほうがいい。それから、此処にはもう来ないほうがいい」
「知ってるよ」
「さよなら」
「さよなら」
彼女は、ただの一度も振り返ることも無かった。

良薬。

黒いスーツに袖を通し、姿見に全身を映す。
普段、着慣れていないだけに滑稽なように思えたが、しゃんとして見えないこともなかった。それは黒のスーツを着るという意味合いが、そう感じさせるのかもしれない。時計を見ると時刻は午後七時を指していた。そろそろ出るかと靴を履きかけた時、コートの内ポケットから、レットイットビーが流れた。
着信表示を見る。
アヤコ。以前に彼女だった女。
一瞬だけ、躊躇する。それは過去から来る気持ちの迷い。しかし、一瞬だけの事で俺はファイブコールで通話ボタンを押す。用件は分かっている。俺は葬儀会場の場所と時間を説明する。
「シュンは何時頃に行くの?」
「俺は今から行く。受付を頼まれてるんだって」久々に俺の名前を呼ぶ、アヤコの声に懐かしさを感じた。「じゃあ、絶対に会うだろうから先に言っとく。私はアベと行くつもりだから。まだアベには話してないから、どうなるか分からないけどね」
当然と言えば当然の事実に俺は少しだけ戸惑った。アベが来るのは何ら不思議な話ではない。アヤコの現彼氏であり、死んだ友人の仲間だった男なのだ。
「もしもーし」と、アヤコの声を聞きながら俺は努めて平静に聞こえる様に言った。
「聞こえてるよ。まだ付き合ってたことに驚いただけだ」
「ああ。今年で三年になるから長いっていえば長いのかな」そう言ってから突然、アヤコが可笑しそうに笑った。
「昔のことを思い出しちゃった。シュンとは一ヶ月とも持たなかったのにね」過去を笑って語れるのは、きっとアヤコが幸せだからだろう。三年前に断ち切ったはずの感情が胸の内でむくりと鎌首をもたげる。
「正直、言うと俺はアベが好きじゃない。もっと言うと、アベのどこが良くてアヤコが付き合ってるのか分からない」
今度はアヤコが沈黙する番だった。昔からそうだった。アヤコは怒ると黙りこんでしまう。アベはこの事を知っているだろうか? 長い溜め息が受話器の向こうで聞こえた。
「ほんと、変わってないね。昔にも言ったと思うけど、そうやって人を上辺だけで判断してると損なだけだよ」アヤコの口調からは、やや落胆の響きが感じられた。そして、過去からの穿ちは痛みを伴い、俺の胸を深く抉った。「上辺だけでなんか見てない」
「じゃあ聞くけど、シュンはアベの何を知っているの? 確かに誤解を生みやすい人であるのは否定はしない。けど、顔見知り程度の関係だったシュンには言われたくない」確かに俺はアベの事は何も知らない。興味も無かった。
「ねえ。シュンが思う程、アベはそんなに嫌な奴なんかじゃないよ」
「アヤコから見てアベはどんな奴に見えるんだろう」
「そうだな。例えて言うなら良薬かな」アヤコは少し笑って「良薬、口に苦しって言うでしょ」と、言った。

book

虹ヶ原 ホログラフ

虹ヶ原 ホログラフ


いっちゃてる人達(或るいは何処にでも居てそうな)が交錯する話です。
あちこち展開がブレるので、飛ばし読みはしにくいです。じっくり読んでも、よく分からなかったんだけどね。この人の書く話(漫画)は共通して、生きるがテーゼなんだろうな。足掻けよ、もがけよ、苦しくても、悲しくても、絶望しても、それでもキミは生きていく。もし、貴方が初見で浅野いにおを読もうとするなら「素晴らしい世界」からを読むことをお勧めします。
個人的に、浅野いにおは日常的な話に措いて生きると思うのでな。