過ぎ去り奪い去り

その晩はさ眠りもせずにウロウロと部屋中を動き回っていたよ
いつもなら寝てしまうと中々起きない俺の為に
番犬である事を選んだ彼は玄関で丸くなってるのが常なんだけど
その日だけは眠れないのか 或るいは何かを感じとっているのか
恐らくは そのどちらでもあるんだろう きっと不安だったんだと思う


ベッドで横になってると鼻息が直ぐ傍で聞こえる
目を上げると彼がジッと俺を見ていた
俺は手を伸ばして頭を何度か撫でてやった
彼の身体は病魔に冒されている この数週間はろくに食べ物を口にしていない
様子がおかしいと病院に連れていった時には何もかもが手遅れだった
手術に耐えれる若さは身体から消えて 病魔の進行は日毎に精気を奪い遂には
自力で立つのもやっとのようだった








何の話だった?ああキミが死んだら俺は泣くかってエゴイズムな話か
多分 泣くだろうね 断言は出来ないけれど俺はきっと彼が亡くなった時と
同じようにキミを想って泣くだろう
泣くという行為は所詮はエゴイズムに基づくものだと聞いた事があるけれど
少なくとも彼という荷を背負ってキミという荷を背負う俺には権利があるはず
だし それで例え弾叫するヤツらが居たとしてもヤツらには解るまい
歳を取るってことは経験が積み重なり若さを つまり時間を奪うって事だ





時間は声すらも奪う どんなに悲しくても声をあげて泣けないんだ