移り香

部屋に立ち込めるアナスイの匂い。背の高い家具と余計な装飾が嫌いなチビでヒステリックなキミの匂い。肌を重ね合わせ 今はスペルマの匂いが中和された部屋。


まっ暗な部屋が嫌いなキミの部屋には灯りが絶やされる事はない。籐で作られたランプシェードが壁に陰影をつくる。
壁を背に眠るキミの背中に口づけ、ベッドから抜け出した。




冷蔵庫から、よく冷えたZIMAを取り出しソファに身を沈める。この部屋に来る度に何かが増えていく。例えば薬莢が巻かれた灰皿。実際に使用された弾丸らしく、異様に恐ろしく重い。キミが好きなジンジャーミストを飲む為だけに買ったゴブレットグラス。馴染みのバーで出てくるグラスと同じらしい。
そしてベッドで眠るキミの首を飾るロザリオ。アクアマリンが埋めこんである。首飾りを手にして微笑するキミは俺の腕に彫られたロザリオを見てまた微笑む。





早くに一人で生きてきた俺にとって依存するのも依存されるのも無価値で意味を為さないものに過ぎなかった。
だってそうだろう? 自身が強くあろうと思えば思うほど身軽さが要求されるのだから。

2本目の煙草を揉み消し、立ち上がる。刹那、アナスイの匂いが微かに鼻腔をくすぐった。


キミを起こさないようにソッとベッドに潜りこむ。立ち込めるキミの匂い、俺の口元から笑みが零れる。

この匂いは嫌いじゃない。