Tel Me From Ghost

気付くと僕は、電話ボックスの前に立っていた。

街灯も何もない闇にあって、電話ボックスだけが色を持って浮かんでいる。どうして、こんなところにいるのか?とか、ここは何処なんだ?とか頭を捻っても答えを知る記憶が欠落してるのか、答えを導きだす事は出来なかった。

電話ボックスの扉を押すと蝶番が小さな悲鳴をあげた。一切の音を拒否してるかのような場所にあって、その音はやけに大きく聞こえた。


それが、合図だったかのように狭い空間には少々耳障りな程の音量で呼び出し音が響いた。一瞬。一瞬だけ躊躇したが、急きたてるようなコールに後押しされた格好でフックを上げ、受話器を耳にあてると、言葉が飛び込んできた。


今から、行くから。


女の声で、それだけ言うと一方的に通話が途絶えた。

聞き覚えのある声のような気もしたが確証を得るには余りにも短すぎる。

迎えに来るって事なんだろうか。此処が何処か知らないけれど、あの声は来ると言った。

フックに受話器をかけ、ボックスを出る。
外は相変わらず、真っ暗で見えるものといえばボックスの灯りが投影する自分の影だけだった。

いったい誰が来るのだろう。



ギッ。


蝶番が軋む音がした。

いつのまにか投影された影は二つになって。シルエットは女の様に見えた。

ゴクリ。僕は喉仏を鳴らして、出来るだけ、ゆっくりと振りかえった。