お蔵品

私はホテルを飛び出した。
背中に彼の声が聞こえてきたけども構っちゃいられない。
道ゆくカップルが道を譲る。私の形相が怒りに歪んでいるんだろう。
どれぐらい歩いてきただろうか。私はようやく後ろを振り返った。
当然の事ながら彼は追いかけてはこない。期待はしていないつもりだったが落胆の色は隠せない。
怒りに任せて出てきたが、ここは何処なんだろう。今夜、甘い夜を過ごすはずのホテルが遠くに見えた。
思えば今日は始めから最悪だった。二人の記念日に一泊二日の旅行。
場所を決めたのも私だったしホテルの予約を取ったのも私だった。まぁ、そこまではいい。
待ち合わせに寝坊してきた挙句、観光名所も調べて来ない。始終、私に付いてくるだけの金魚のフン。
おまけにカメラを忘れてくる無能っぷり。チェックインしレストランで食事を済ませ部屋で一息つき彼の放った一言がトドメだった。「あーなんか疲れた」
その後彼を散々、罵って怒りが納まらない私は部屋を出た。バッグも持たずに。
財布も持ってない身としては部屋に戻るしかないのだが、このまま戻っても彼に少し優しくされたら許してしまうみ違いない。それは癪だ。何となく私は夜の道を歩き続けた。


しばらく道なりにいくと街は途端に明かりと喧騒に包まれた。昼間に見た街だ。
街は土産屋や飲み屋があり観光客で賑わっていた。その賑わいに少し溶け込めない自分がいる。

私がやってることは、完結した物語の続きを探してるだけではないだろうか。そんな考えが頭によぎる。そんなことはない。と、否定するには余りにも現実味を帯びすぎている。自分が酷く惨めに思う。今、声をかけられたら私はついていくだろう。幸か不幸か、誰にも話しかけられることなく私は来た道を戻るだけだった。

部屋の鍵をフロントで受け取っておそるおそる入ると彼は鼾をかいて寝ていた。
私は笑った。
ひとりで悩んでたことがバカバカしくなった。大の字で寝てる彼氏を蹴ってスペースを作りシーツに潜りこむ。
物語はひとりでは作れない。

私は深い眠りについた。