池の鎖


池があった。僕が生まれる前よりも、聞けば親父が生まれた時から街にあった池。
そんなに大きな池ではない。ぐるりと徒歩で廻って十と三分。その池が都市開発の波に呑まれ、住宅地になることになった。約、一年少々で工事が終わり、拓けた土地にはあっという間に家が建った。交通の利便さと長閑さが受けたのだろう、完売は早かった。

子供時代によく遊んだ池が無くなった。でも、感傷に浸る程でもない事だった。
親父から、Uさん一家がそこに住んでいると聞くまでは。Uさんの息子は池で死んだ。当時、六歳ぐらいだったろうか。そこにUさんは移り住んだ。


過去は風化するものだ。そう思っていた。
けれど、過去から動けなくなることだってあるんだ。