犬森さん。

ポカミスだな。
課長の顔がこれでもか、というぐらい歪んでいる。
何か言いたいことはあるかね。と、課長は苦々しく言った。
あるわけがない。何の言い訳も説明もしようがないミスだった。すみませんでした。僕は頭垂れて手元の書類に目を落とした。



机に肘かけながら大きく溜め息を吐いていると、対面に座っている先輩である犬森さんが声をかけてきた。
「やっちまったことは気にすんな。同じ事を繰り返さないようにだけ気にすればいいんだって」
「まあ、そうなんですけど。普段の僕なら絶対在り得ないミスなんですよ」
「まあ、人間のやることに絶対なんてことはないんだけどな。特にポカミスとかケアレスミスなんつうのはさ、アレだ」犬森さんは言葉を切り、僕に指を向けてきた。「チン毛みたいなもんだよ」
「チ、チン毛ですか」「そうだよ。彼女が初めて家に遊びに来るとするだろ? 先ず部屋を片付けるだろ?忘れちゃならんのが、エロ関係を隠す事とトイレ掃除だろ? カーペットにこびりついたお菓子の食べカスとチン毛をローラーで根こそぎるだろ? でもな、チン毛ってのは床だけじゃなくて机の上だとか、本の間に栞みたいになってたりするだろ? どんなに注意を払って掃除をしてもチン毛は消えないんだよ。それとポカミスとかケアレスミスは同じなんだよ。な?」
「そ、そうかもしれないですねえ」








そんな訳ねえよ。