ごっどふぁーざ
先日から街全体を覆っていた雨雲が何処かに行き、久方振りに姿を現した空は澄んで見えた。
梅雨の中休み。お天気お姉さんがそう言ってるからそうなんだろう。
それでもまだ街は湿地帯のままで車も泥だらけのままなんだけども、真ん丸い月が笑っているから、まぁいいかって気分になる。
くすんだビルにある地下へと通じる洞穴は秘密めのバーへの入り口。コンクリートの階段を下ると双璧に描かれたグラフティから漂う有機溶剤の匂いに混じってアンモニアの臭気が微かにする。
階段の先にある無機質な扉を蹴り開けると思ったより大きな音が響いて中に居た奴らが何事かと目を丸くしていたが、お構いなしにジンライムをオーダーすると、店はまた喧騒を取り戻して、汚いナリをした男が入って来た事なんて忘れてしまったようだ。
マホガニーの一枚板で作られたカウンターでキャスケットを被った若者がアルコールの海に漕ぎだそうとしている。
やがて店内がまばらになり、扉の向こうで雨の音が聞こえ始めた頃合に席を立ちマスターに会釈する。
飲みかけのグラスには深い飴色のゴッドファーザー。艶やかなマホガニーのカウンターの上でアイスピックで削られたブロック・オブ・アイスがグラスの中でカランと音をたてて崩れた。